宅建試験の民法・借地借家法分野で頻出の「普通借家契約」と「定期借家契約」。更新の有無や書面要件など、似ているようで法的効果が大きく異なる二つの契約類型を、借地借家法の条文に沿って整理する。
法定更新が原則の「普通借家契約」
借地借家法第26条第1項により、期間の定めがある建物賃貸借では、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶等の通知をしなければ、従前と同一の条件で契約が更新されたものとみなされる(法定更新)。同条第2項では、期間満了後も賃借人が使用を継続し、賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ、同様に更新されたものとみなされる。
さらに第28条は、賃貸人による更新拒絶の通知や解約の申入れは「正当の事由があると認められる場合でなければ」できないと定めており、賃貸人側から契約を終了させるハードルは高い。
期間設定にも特徴がある。第29条第1項により、期間を1年未満とする建物賃貸借は「期間の定めがない建物の賃貸借」とみなされる。つまり普通借家契約では、実質的に1年未満の確定期間契約を組むことができない。一方、第29条第2項により、賃貸借の存続期間の上限を定める民法第604条は建物賃貸借には適用されないため、長期の契約も可能である。
なお、これらの規定は第30条により強行規定とされ、賃借人に不利な特約は無効となる。普通借家契約は口頭でも締結でき、貸主に契約前の説明義務は課されていない。
更新のない「定期借家契約」— 書面要件が命
定期借家契約は、第38条第1項により、公正証書による等書面によって契約することを条件に、更新がないことを定められる契約類型である。同項では第29条第1項(1年未満は期間の定めなしとみなす規定)を適用しない旨も定められており、1年未満の短期契約を組める点が普通借家契約と大きく異なる。
2022年5月施行の法改正により、契約書面・事前説明書面のいずれも電磁的方法での提供が可能になった。ただし要件は異なるので混同しないよう注意したい。契約書面(第38条第2項)は、公正証書等の書面によることを前提に、電磁的記録によって契約すれば書面によるものとみなされ、賃借人の承諾は要件とされていない。一方、事前説明書面(同条第4項)は、賃借人の承諾を得た場合に限り、電子メール等の電磁的方法による提供が書面交付とみなされる。「承諾があれば電磁的方法でよい」のは事前説明書面のほうであり、契約書面には承諾要件がない点が試験の引っかけになりやすい。
定期借家契約で特に重要なのが、第38条第3項の事前説明義務である。賃貸人は契約締結前にあらかじめ、「契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了すること」を記載した書面を交付して説明しなければならない。この説明を怠った場合、第38条第5項により、更新がないこととする旨の定めそのものが無効となる。
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「うっかり普通借家契約」に転落する仕組み
ここは受験対策として押さえておきたい引っかけポイントだ。事前説明義務(第38条第3項)を怠った場合に無効となるのは、契約全体ではなく「更新がないこととする旨の定め」だけである。その結果、契約自体は存続したまま、更新のない特約だけが失われ、実質的に普通借家契約とみなされる扱いになる。「説明を怠ったら契約全部が無効」という誤った理解をしないよう注意したい。
また、第38条第6項により、期間が1年以上の定期借家契約では、賃貸人は期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に契約終了を通知しなければ、その終了を賃借人に対抗できない。ただし同項ただし書には救済規定があり、この期間内に通知をしなかった場合でも、その後に通知をすれば、通知の日から6か月を経過した時点で終了を対抗できるようになる。
この「1年前から6か月前まで」という通知期間の数字自体は、普通借家契約の法定更新における通知期間(第26条第1項)と同じだが、法的効果はまったく異なる点に注意したい。第26条第1項は通知を怠ると法定更新される仕組みであるのに対し、第38条第6項は通知を怠ると終了を対抗できなくなる(=賃借人に契約終了を主張できない)対抗要件の仕組みである。「数字は同じ、効果は違う」という対比で整理すると記憶に定着しやすい。
中途解約の扱いの違い
普通借家契約の中途解約は、期間の定めの有無で扱いが異なる。期間の定めがある場合、解約権を留保する特約がない限り、貸主・借主のいずれも期間中に中途解約することはできない(民法第618条)。期間の定めがない場合、貸主は借地借家法第27条第1項により解約の申入れをすることができ、申入れの日から6か月を経過することで契約は終了する。ただし、この解約申入れにも第28条の正当事由が必要である。借主からの解約申入れは民法第617条により、申入れの日から3か月を経過することで終了する。
定期借家契約には、居住用建物に関する中途解約の特則がある。第38条第7項により、床面積(建物の一部の賃貸借の場合はその部分の床面積)が200平方メートル未満の居住用建物について、賃借人が転勤・療養・親族の介護その他やむを得ない事情により、建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、特約がなくても賃借人から解約の申入れができる。この場合、申入れの日から1か月を経過することで契約は終了する。
なお、定期借家契約は期間満了により契約が確定的に終了するが、貸主・借主双方が合意すれば、改めて再契約を結んで使用を継続すること自体は可能である。
まとめ
普通借家契約と定期借家契約は、いずれも借地借家法が定める建物賃貸借の類型だが、法的効果は大きく異なる。普通借家契約は、正当事由がない限り法定更新される賃借人保護の強い仕組みであり、書面は必須ではない。一方、定期借家契約は、公正証書等の書面(電磁的記録も可)による契約と、あらかじめの書面説明を条件に、更新のない確定的な期間限定の賃貸借を可能にする制度である。事前説明を怠ると特約のみが無効になり普通借家契約とみなされる点、両契約とも「1年前から6か月前」という共通の通知期間の数字を持ちながら効果が異なる点は、対比しながら整理しておくと理解が深まる。契約方式・更新の有無・最短期間・事前説明義務・終了通知・中途解約という6つの軸で条文を横断的に確認しておきたい。


